基板設計とは何? 基板設計の基礎から役割まで解説!
プリント基板は、スマートフォンやパソコンなど私たちの日常生活に欠かせない電子機器の心臓部です。その設計を担う「基板設計」は、電子機器の性能や信頼性を左右する重要な工程です。
本記事では、基板設計の基本から役割、設計の流れ、注意点などを詳しく解説します。基板設計が抱えている課題についても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
基盤設計とはプリント基板の部品配置や配線パターンを設計する作業
基板設計は、プリント基板上の部品配置と配線パターンを決定する重要な作業です。この過程では、回路図を基に電気的特性を考慮しつつ、製品に適した基板サイズに収める必要があります。実際の設計では、部品同士の位置関係を考慮しながら、さまざまな制約をクリアすることが求められます。
基板設計の理解を深めるため、プリント基板や回路設計、アートワーク設計との違いも見ていきましょう。
そもそもプリント基板とは?
プリント基板とは、電子部品を実装するために必要な基板のことです。パソコンやスマートフォンなど、日常生活に欠かせない電子機器はプリント基板を使用しています。
プリント基板の利点はさまざまです。まず、配線のミスが大幅に減少し、品質の均一化が図れます。さらに、一度設計すれば同じ回路の量産が可能となり、生産効率も向上します。
加えて、技術の進歩により、従来の手作業による配線方法と比べてより小型で薄い配線が実現できるようになりました。基板内部への配線も可能となり、こうした技術の進歩が電子機器のコンパクト化や性能向上に大きく貢献しています。
基板設計と回路設計の違い
基板設計と回路設計の違いは役割と作業内容にあります。回路設計は電子回路の動作や機能を決定し、回路図や部品表を作成します。一方、基板設計は回路設計の図面を基に、実際の基板製作に必要な基板図を作成するのが役割です。
また、開発は回路設計から始まり、基板設計へと進みます。回路設計では理論に基づき特定の動作を行う回路を作成し、基板設計ではその回路を基板上に実装するため部品配置や導電パターンの接続を行います。
つまり、回路設計は「回路の動作を決定する設計」、基板設計は「その回路を実際に動作させるための設計」といえるでしょう。
アートワーク設計との違い
基板設計とアートワーク設計は関連しますが異なる概念です。基板設計は回路図を基に部品配置や層構造などを計画する作業です。一方、アートワーク設計は基板設計の一工程で、配線パターンのデザインを指します。
アートワーク設計では、CADを使用して基板上の電子部品を接続する配線パターンを作成します。基板の寸法、材質、コンポーネント配置などさまざまな要素を考慮しなければなりません。
アートワーク設計は単なる作画技術ではなく、回路設計の一部で基板製造・実装工程とも密接に関わります。設計者には幅広い知識と技術が必要です。
基板設計の主な3つの役割
基板設計には以下3つの役割があります。なぜ基板設計が必要なのかを、ここでしっかり把握しておきましょう。
・電気的特性に対する配慮
・基板サイズの縮小や製造コストの削減
・製造不良の防止
電気的特性に対する配慮
基板設計の1つ目の役割は、電気的特性に配慮し設計上のトラブルを防ぐことです。
回路設計では部品の組み合わせで機能を実現しますが、実際の基板製作では銅箔パターン(銅箔による配線経路)が予期せぬ電気的特性を持つ可能性があります。
例えば、パターンが抵抗やコンデンサとして機能したり、アンテナとなってノイズを拾ったりする場合がその例です。また、インピーダンス(交流回路での電流の流れにくさを表す値)の不整合により通信品質が低下する恐れもあります。
そのため基板設計では、部品の電気的特性を考慮し、パターンの形状、線長、線幅、配線間のクリアランス(パターン同士や、パターンと基板端などの間に設ける最小の絶縁距離)などを慎重に検討する必要があります。
基板サイズの縮小や製造コストの削減
基板設計の2つ目の役割は、基板サイズの縮小と製造コストの削減です。
電気製品の小型化・高機能化に伴い、基板も小さく高機能であることが求められます。設計者はサイズの最小化とコスト削減を常に意識しなければなりません。具体的には、スルーホール(プリント基板に開けられた穴)の使用最適化が重要です。多用すると配線可能面積が減少し基板が大きくなり、小さくすると加工費が高くなります。
無駄のない最適な設計で、サイズの最小化やコスト削減を実現できれば、製品全体の製造コスト削減にもつながります。
製造不良の防止
基板設計の3つ目の役割は、製造不良を未然に防ぐことです。
製造不良の原因は多岐にわたります。例えば、ベタ銅箔近くの細すぎるパターンはエッチング(不要な銅箔部分を溶解・除去する工程)不良でショートの原因になります。鋭角や極端に細いパターン、狭すぎるクリアランスも問題です。
製造プロセスを理解し実現可能な設計を行えば、トラブルや故障のリスクを大幅に低減できます。
基板設計の流れを4ステップで解説
基板設計は、さまざまな段階を経て行われます。ここでは、基板設計の流れを4ステップで見ていきましょう。
1.回路図の作成
2.部品の選定と配置
3.配線パターンのレイアウト
4.設計データの出力
1. 回路図の作成
基板設計を行う際は、まず回路図を作成します。回路図は部品の接続や信号の流れを示すための図面です。部品や接続点は記号で、配線は線を用いて表します。
回路図の段階では求める機能を実現するために、部品や接続を考慮して作成しなければなりません。使用する抵抗やコンデンサなどの部品選定から始まり、部品同士をどのように接続するかまでを設計します。
回路図は基板設計だけでなく、製造プロセスにも影響を与えるため、動作検証やシミュレーションを徹底しましょう。
2. 部品の選定と配置
回路図の完成後は使用する部品を選定し、基板上に配置します。
部品の選定ではサイズや形状だけでなく、コストも考慮しなければなりません。また、部品がすぐに手に入るかも重要な要素です。
基板上の配置を検討する前に、まずは部品のサイズや形状を把握します。求める機能を実現するには、部品同士の接続や基板上の配線スペース、熱の放散などの考慮も必要です。
さらに、効率的な製造も目指すなら、実装しやすい配置も検討しておきましょう。
3. 配線パターンのレイアウト
部品の選定と配置を終えたら、次は配線パターンのレイアウトを行います。
配線パターンとは、プリント基板上に導体で形成した配線の軌跡です。配線パターンのレイアウトにはCADソフトウェアを使用し、電気的特性を考慮して部品同士を接続するルートを決定します。
配線パターンは可能な限り短くし、ノイズやクロストークを防ぐようにレイアウトすることが重要です。クロストークとは、基板上で近接する配線間で電磁的な干渉が生じ、ある信号線の電気信号が隣接する信号線に望ましくない影響を与える現象のことです。対策としては、信号線とグランプレートの距離を適切に保ち、信号線をシールドで覆うことが挙げられます。
また、部品同士の距離が近いと熱が発生して悪影響を及ぼす可能性があります。必要に応じてヒートシンクを設置してください。
4. アートワークデータの出力
最後に、アートワークデータを出力して基板設計は完了です。アートワークとは配線パターンのことであり、プリント基板の製造に必要なデータが含まれています。
アートワークデータはGerberフォーマットという標準形式で出力され、製造ラインで使用されるのが一般的です。Gerberフォーマットには基板の外形や形状のイメージ、穴あけドリルの加工、レジスト、シルクなどに関する情報が数値化されています。
また、同時に部品表や製造指示書も出力し、部品の調達や組み立てが行われます。
アートワークデータは基板のアップデートや修理にも使われるので、長期的な保管が必要です。
基板設計を行う際の3つの注意点
基板の品質が電子機器の品質を左右するといっても過言ではありません。ここでは、基板設計を行う際に注意したい3つのポイントを解説します。
・実現できる設計を行う
・コストに見合った設計を行う
・品質を考慮して設計を行う
実現できる設計を行う
基板設計を行う際は理論上だけでなく、実際に実現できる設計を心がけてください。
回路設計はコンピューター上で行うため、部品の電気的特性までは考慮されていません。理論上は優れた回路であっても、物理的には実現できない場合があります。
例えば、選定した部品のサイズが大きく距離が近ければ、発熱が動作に影響を与える可能性があります。また複雑すぎるパターンを設計すると、製造工程でトラブルが発生するかもしれません。
基板設計には物理的・電気的・環境的な制約があるので、実現できるのかを考慮して設計に取り組みましょう
コストに見合った設計を行う
基板設計を行う際は、コストバランスを考慮することも重要です。基本的には製品開発と同様に、製造コストの削減が求められます。
例えば、基板サイズが大きいと、単純に材料が増えるためコストの増加は避けられません。基板が多層化している場合は製造工程が増えるので、どうしてもコストが上昇します。
また特殊な部品や材料が含まれているのも、コストが増加する原因です。
設計者は決められた予算の中で、適切なコストパフォーマンスを発揮しなければなりません。標準的な部品の使用や調達コストの抑制で、製品全体のコスト効率を向上させましょう。
品質を考慮して設計を行う
基板設計では、品質への考慮が信頼性の高い設計につながります。想定された条件を満たし、耐久性にも優れていることが重要です。
例えば、熱が発生しやすい部品を使用する場合、適切な箇所にヒートシンクを設置すれば、熱による劣化を軽減できます。製造業者と連携して品質管理を行うことで、高品質を維持できるでしょう。
またトラブルが発生した場合は、原因の分析と改善策の立案も必要です。品質を考慮して設計を行うことで、長期的に安定した性能が提供できます。
基板設計が抱える2つの課題
基板設計は電子機器にとって欠かせない存在ですが、以下の課題も抱えています。
・設計が複雑化している
・技術者に求められるスキルが拡大している
設計が複雑化している
基板設計の課題の一つは、電子機器の小型化・高機能化に伴うプリント基板設計の複雑化です。
回路の高速・高周波化や実装の高密度化により、基板構造は非常に複雑になりました。対応するため、自動設計技術や各種解析技術も進化していますが、パターン設計に起因する回路トラブルは依然存在します。インダクタンスや静電容量、抵抗分の見積もりミスが特に問題です。
技術者に求められる技術レベルは高まっていますが、全てに対応するのは困難です。そのため、高機能なCADやシミュレータツールの需要が今後増加すると予想されます。
技術者に求められるスキルが拡大している
基板設計のもう一つの課題は、技術者に求められるスキルが拡大していることです。
基板が複雑化したことで、その設計に求められるレベルは年々高くなっています。しかし、技術者は高齢化が進んでおり、特にレイアウト設計に携わる人材は不足する状況です。一人の設計者が複数の業務を担うために、幅広いツールを使いこなすことが求められています。
そのため初期投資のコストはかかりますが、自動設計ツールの導入も検討しなければならないでしょう。
また複雑な基板を製造できなければ、顧客離れは避けられません。人材不足の中でニーズに沿った基板設計を行うには、さらに専門性を高めておく必要がある点も課題となっています。
基板設計はオーダーメイドでプロに任せることも検討しよう
基板設計は電子機器の製造に欠かせないプロセスです。基板設計には、電気的特性と物理的な制約に配慮した部品配置や配線レイアウトなどの技術が求められます。適切な設計を行えば、製造不良の防止やコストの削減が可能であるものの、昨今では設計の複雑化や技術者に求められるスキル水準の上昇などが課題視されているのが現状です。そのため、必要に応じて基板設計のプロに依頼することも視野に入れることをおすすめします。
成電社では、多様化・細分化するニーズにお応えするオーダーメイドの基板設計を提供しています。設計から基板実装や電気試験まで対応可能です。
納品までトータルでサポートいたしますので、お気軽にお問い合わせください。